東京高等裁判所 平成10年(行ケ)141号 判決 1999年6月24日
名古屋市中村区名駅2丁目32番3号
原告
豊和工業株式会社
代表者代表取締役
野崎東太郎
訴訟代理人弁護士
吉武賢次
同
神谷巌
同弁理士
佐藤一雄
同
前島旭
東京都港区新橋1丁目16番4号
被告
エスエムシー株式会社
代表者代表取締役
高田芳行
訴訟代理人弁理士
千葉剛宏
同
佐藤辰彦
主文
特許庁が平成8年審判第17661号事件について平成10年4月7日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
主文と同旨
2 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、考案の名称を「圧流体シリンダ」とする実用新案登録第2035182号考案(以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。被告は、平成8年10月17日に、原告を被請求人として、本件考案の実用新案登録の無効の審判を請求し、特許庁は、これを平成8年審判第17661号事件として審理した結果、平成10年4月7日に「登録第2035182号実用新案の登録を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、同年4月15日にその謄本を原告に送達した。
2 審決の理由
別紙審決書の理由の写しのとおり
3 審決を取り消すべき事由
(1) 本件考案の実用新案登録請求の範囲請求項1は、次のとおりであった。
「バレルの側壁に軸方向にスリットを有し、該スリットよりバレル内の遊動ピストンに連結されたドライバーの先端が突出し、スリットはスチールバンドにて密封されるようになっている所謂ロッドレスシリンダにおいて、バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみに、ピストンの軸芯と平行な案内レールをバレルと一体に設け、その案内レールには、前記スリットの幅方向の両側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、これらの案内面に案内される案内面を有する案内子を前記ドライバーに設けたことを特徴とすう圧流体シリンダ。」
(2) 原告は、本訴の係属中である平成10年6月11日に明細書及び図面の訂正(以下「本件訂正」という。)をすることについて審判を請求し、平成10年審判第39041号事件として審理され、平成11年3月9日に「登録第2035182号実用新案の明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。」旨の審決(以下「本件訂正審決」という。)を受け、これが確定した。
(3) 本件訂正は、実用新案登録請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的として、請求項1を次のとおりとするものである。
「バレルの側壁に軸方向にスリットを有し、該スリットよりバレル内の遊動ピストンに連結されたドライバーの先端が突出し、スリットはスチールバンドにて密封されるようになっている所謂ロッドレスシリンダにおいて、バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみの側面に、ピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールをバレルと一体に突設し、その案内レールには、前記スリットの幅方向の両外側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、これらの案内面に案内される案内面を有する案内子を前記ドライバーに設けたことを特徴とする圧流体シリンダ。」
(4) したがって、本件考案の技術内容は、本件訂正後の実用薪案登録請求の範囲に基づいて認定されるべきであるのに、審決は本件訂正前のそれに基づいて認定したものであるから、取り消されるべきである。
第3 請求の原因に対する認否
請求の原因1、2及び3(1)ないし(3)は認める。
理由
1 請求の原因1、2及び3(1)ないし(3)は、当事者間に争いがない。
2 審決を取り消すべき事由について判断する。
上記当事者間に争いがない請求の原因3(1)ないし(3)の事実によれば、本件明細書の実用新案登録請求の範囲が本件訂正審決によって減縮されて、実用新案登録請求の範囲第1項の「両側の側壁の一方のみに、ピストンの軸心と平行な案内レールをバレルと一体に設け、」を「両側の側壁の一方のみの側面に、ピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールをバレルと一体に突設し、」(下線部分が訂正された箇所である。)と、「案内レールには、前記スリットの幅方向の両側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、」を「案内レールには、前記スリット幅方向の両外側に前記軸心と平行な案内面を夫々備え、」(同上)とそれぞ為訂正されたことが認められる。
そうすると、改めて訂正後の実用新案登録請求の範囲と公知事実ないし周知事実との対比を行わなければ、本件考案に係る実用新案登録が無効とされるべきものであるかどうかを判断することができないことは明らかである。そして、このような審理判断を、特許庁における審判の手続を経ることなく、審決取消訴訟の係属する裁判所において第一次的に行うことはできないと解されるから、本件訂正前の実用新案登録請求の範囲に基づいてされた審決を取り消した上、改めて特許庁における審判の手続によってこれを審理判断すべきものである(最高裁判所平成11年3月9日第三小法廷判決・裁判所時報1239号1頁参照)。
3 よって、原告の本訴請求は、理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成11年6月10日)
(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)
理由
1 〔手続きの経緯と本件登録実用新案の要旨〕
本件登録第2035182号実用新案(以下、「本件考案」という。)は、昭和60年11月6日に出願されたものであり、平成4年12月10日に出願公告(実公平4-52482号)がされた後、同6年10月6日に設定登録がなされたものであって、その考案の要旨は、出願公告された明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項第1項に記載された次のとおりのものと認める。
「1.バレルの側壁に軸方向にスリットを有し、該スリットよりバレル内の遊動ピストンに連結されたドライバーの先端が突出し、スリットはスチールバンドにて密封されるようになっている所謂ロッドレスシリンダーにおいて、バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみに、ピストンの軸芯と平行な案内レールをバレルと一体に設け、その案内レールには、前記スリットの幅方向の両側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、これらの案内面に案内される案内面を有する案内子を前記ドライバーに設けたことを特徴とする圧流体シリンダ。」
2 〔請求人の主張〕
請求人は、本件考案は、以下の無効理由1乃至無効理由7により、その登録は無効とされるべきものであると主張している。
無効理由1.実用新案登録請求の範囲の請求項第1項に記載された考案(以下、「本件考案1」という。」)は、甲第1号証にその特徴とする全ての構成要件が開示されており、実用新案法第3条第1項の規定に該当し、同法第37条第1項の規定により無効とされるべきものである。
無効理由2.本件考案1は、甲第2号証にその特徴とする全ての構成要件が開示されており、実用新案法第3条の2の規定に該当し、同法第37条第1項の規定により無効とされるべきものである。
無効理由3.本件考案1は、甲第1号証及び甲第3号証の開示内容とを併せ鑑みれば、当業者をして極めて容易に想到することができるものであり、実用新案法第3条第2項の規定に該当し、同法第37条第1項の規定により無効とされるべきものである。
無効理由4.本件考案1は、甲第3号証及び甲第4号証とを併せ鑑みれば、当業者をして極あて容易に想到することができるものであり、実用新案法第3条第2項の規定に該当し、同法第37条第1項の規定により無効とされるべきものである。
無効理由5.本件考案1は、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証とを併せ鑑みれば、当業者をして極めて容易に想到することができるものであり、実用新案法第3条第2項の規定に該当し、同法第37条第1項の規定により無効とされるべきものである。
無効理由6.実用新案登録請求の範囲の請求項第2項に記載された考案(以下、「本件考案2」という。」)は、甲第3号証と甲第1号証及び甲第4号証のいずれかに基づいて、当業者をして極めて容易に想到することができるものであり、実用新案法第3条第2項の規定に該当し、同法第37条第1項の規定により無効とされるべきものである。
無効理由7.本件考案1は、その必須の構成要件を規定しておらず、実用新案法第5条第4項の規定に違背することから、同法第37条第1項の規定により無効とされるべきものであり、これに従属する本件考案2も、また無効とされるべきものである。
以上無効理由1から無効理由7を挙げ、その登録を無効とされるべきものであると主張し、下記の証拠方法を提出している。
甲第1号証:特開昭60-172711号公報
甲第2号証:特開昭60-234106号公報
甲第3号証:特開昭58-214015号公報
甲第4号証:欧州公開特許公報第0157892A1号及びその翻訳文
甲第5号証:THK株式会社のパンフレット「THK LM SYSTEM」
3 〔被請求人の主張〕
一方、被請求人は、請求人の上記主張に対して、本件考案は、無効にされるべきものでなく、充分に登録要件を備えたものである旨以下の主張をしている。
無効理由1について
乙第1号証は、甲第1号証と同じ技術分野の文献であり、審査官が当然審査している範囲で、引例として使えない技術と判断されたと考えるのが自然である。そして、甲1号証の技術について、「この課題を解決するために、本発明では、2つの内室と2個のピストンが共通のケーシングの中に並べて設けられ、かつ中央の隔壁によって相互に分離され、両ピストンの力取出し突起が互いに平行に延び、かつ連結板にねじ止めされ、この場合シールされた少なく共1つの縦スリットが更に、外側の帯状シールによってシールされ、この帯状シールが力取出し突起を通って延びている。」
(第3頁左欄上段第13行~右欄上段第1行、及び図2、3、6参照)と記載されているように、変形しないように厚み寸法を大きくした隔壁の両側面によって2個のピストンをそれぞれ案内して、ピストン作動時に力取出し突起が大きく側方移動しないようにしたものであり、本件のように、側壁が変形しても案内子を円滑に案内できるようにしたものでないし、バレル両側の側壁の一方に設けた案内レールの左右両側の案内面によって案内子を案内するようにしたものでない。また、「第2のピストンを収容するシリンダの内室の中でも該ピストンに圧力を加えることができる。従って、平行に延びる両内室の中で等しい圧力が発生するので、中央の隔壁は片側から横向きの力を受けない。よって、隔壁が変形したり、横へ移動することがないので、本発明圧力媒体シリンダの、圧力とは全く無関係の案内特性が得られる。これによって更に、片側からのせん断モーメントが発生せず、」(第3頁左欄下段第20行~右欄下段第8行)に記載されているように、2つの内室の一方のピストンにだけ圧力を加える場合は、隔壁が横向きの力を受けて隔壁が或程度変形したり横移動することを示している。従って、甲第1号証は一方の内室のピストンにだけ圧力を加えて移動させる場合に隔壁が他方の内室側へ或程度変形移動し、その結果、隔壁の変形側の内室の左右幅が狭くなってピストンの摺動抵抗が大きくなり、ピストンを円滑に案内できなくなる。また、「例えば第6図の右側の内室に圧力が加えられるケーシング11の材料に弾力があるので、内室がやや拡大する。内室がケーシン11の外面・・・力取出し突起18、19がこの外面に注いでいる・・・の近くに設けられ、中間壁45が硬いので、右側の内室の拡大はケーシング11の右側の縁領域48においてのみ行われる。従って、右側の内室13の左半部は変形しないで円形のままであり、一方、内室13の右半部は外側に拡大している。第6図の実施例においてピストン14と同一に形成されているピストン36は内室15の左半部のところで、内室13が変形しない場合と全く同様に案内される。」(第6頁左欄上段第6行~同第18行)に記載されているように、内室に圧力を加えてピストンを作動させる場合、中間壁45側でない外側の側壁が外側に変形移動するので、ピストン36が内室13の左半部即ち中間壁45の内面でのみ案内されるものである。よって、側壁が変形しても案内レールの左右両側の案内面によって円滑に案内できるようにした本件と異なる。
以上、甲第1号証は「側壁が内圧によって変形する場合の問題点を解消するために、2つの内室の隔壁(中間壁45)の厚みを大きくし、その隔壁の両側によって2つのピストンの片側面をそれぞれ案内するものであるから、隔壁の厚み寸法を大きくすることによって必然的にケーシングの大型化を招くものであり、また、ケーシングの材料に弾力があるので隔壁(中間壁45)が一方の内室の圧力によって他方の内室側へ或程度変形移動することは避けられず、その結果他方のピストンの摺動抵抗が大きくなって円滑な案内ができなくなる。
本件考案1は「バレル両側の側壁の一方に左右両側に案内面を備た案内レールを設け、その案内レールの両側の案内面によって案内子を案内するようにしたものであり、バレル側壁の厚さ寸法をその側壁が内圧によって変形する程度に小さくして小型化する場合でも、一方の側壁に設けた案内レールの両側の案内面によって案内子を円滑に案内できるようにしたものであり、構成及び作用効果を異にする」ものであり、無効とされるべきものではない。
無効理由2について
甲第2号証は、乙第2号証の改良に関するものであり、その乙第2号証はその優先権主張出願番号が乙第1号証の番号と同じく欧州特許出願83100256.3号であることからわかるように、審査で引用された乙第1号証の部分的な改良にすぎないものである。甲第2号証の特許請求の範囲から2個のピストン部材が半径方向に所定範囲で移動可能なように力伝達部材に係合させたもので、力伝達部材にかかる荷重によってシリンダ管に僅少な傾斜や小さなたわみを生じてもピストンが自動調心作用によりシリンダ管の湾曲に順応するようにしたものである。
また、甲第2号証は特許請求の範囲から案内要素17、170と荷重受け要素4とを所定角度だけ回転自在にするベアリング18を設けたもので、荷重受け要素又は案内要素に不均一または過大な荷重が作用した場合に荷重受け要素に不均一な荷重が作用するのを防止するようにしたものである。
そして、本件考案1は審査で引用された甲第1号証や甲第2号証の技術の特徴部分に関するものでなく同一性や、進歩性が審査された上で相違点が認められて権利付与されたものである。
また、「この第2図のものは、案内要素170がヨーク形のつる状をなし、・・・・スライダ46に被動側の要素が接続されている。」(甲第2号証第6頁右欄上段第20行~右欄下段第7行)に記載されているように、第2図に、筒状部材1、案内要素170、目盛42、補強帯45およびスライダ46が総て記載されており、筒状部材の一方の側壁に補強帯のみを設けることについて何ら記載がないし、そのことを示唆する記載もない。そして、第6図にも筒状部材1、案内要素170、目盛42、補強帯45およびスライダ46が総て記載されており、参考図面(1)に示す構造についてどこにも記載されていない。また、甲第2号証第7頁左欄上段第8行~第13行には、スリット10を挟んで一方側にのみ案内要素を配設することについてはどこにも記載がないし、そのことを示唆する記載もない。しかも、甲第2号証は荷重伝達要素又は案内要素に不均一または過大な荷重が作用した場合に荷重受け部材に不均一な荷重が作用するのを防止するのを目的とし、第1、3、4、5図にはつる状の案内要素17がスリット10の両側に配置された2個の案内トラック16に移動自在に支持されている(第5頁左欄下段第4行~第7行)ものが示され、第2、6図にはスリットの一方側に外部案内機構45が配設されているものが示されているのであるから、一方側の外部案内機構(補強帯)のみを単独で使用することなど予想だにしないことである。
また、甲第2号証第7頁左欄上段第8行~第10行の記載について、移動要素45aは、ベアリング18の大きさに比べてきわめて小さくと記載されている。このことは第2、6図においては、案内要素170の反対側に外部案内要素45を付加的に配設することを示していると考えるのが自然なことである。また、そのことは甲第4号証の和訳文より明白あり、和訳文第3頁には「本発明は・・・案内レールが縦方向のスリットの両側で直接筒状部材の外面に設置される直線伝動装置に関する。」と記載され、和訳文第10頁の請求の範囲第6行~第9行には「・・・案内レールが縦方向のスリットの両側で直接筒状部材の外面に設置される」と記載され、発明の必須要件がスリットの両側で案内する点にあることを明示しており、案内レールをスリットの片側のみに設ける記載はどこにもない。
無効理由3について
甲第3号証はテーブル用直線運動ころがり軸受けユニットに関するもので、本件考案1と対象分野を異にする。甲第3号証に関する技術は第1頁左欄第18行~右欄第2行に記載されているようにねじ軸が回転することによって送りねじ体即ちケーシングを正確に移動させるものであり、目的構成効果を異にする。本件考案1は、バレル側壁が内圧によって変形するものでないし、その変形があっても円滑に案内できるようにしたものでなく、当然にバレル両側の側壁の一方に案内レールを設けるものでもない。
無効理由4について
甲第4号証は、甲第2号証の優先権主張の基礎出願の公開公報であり、その和訳文第3頁第3行~第13行に、「本発明は・・・案内レールが縦方向のスリットの両側で直接筒状部材の外面に設置される直線伝動装置に関する。」、和訳文第10頁第6行~第12行に、「案内レールが縦方向のスリットの両側で直接筒状部材の外面に設置される」と記載されているように、スリットの両側に設けた案内レールを案内するものであり、本件考案1のように、バレル側壁が内圧によって変形しても円滑に案内できるようにするものでもなく、バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方に案内レールを設けるものでもない。また、参考図面(2)を添付しているが、甲第3号証にはモータ14、ねじ軸5、送りねじ体4aをスリット付ロッドレスシリンダに代える記載がないし、そして、甲第4号証にもなく予想だにできず、参考図面(2)は、請求人が勝手に作成したものにすぎない。
無効理由5について
甲第1号証に甲第3号証および甲第4号証に記載の考案は、本件考案1とは異なるものであり、何れにも本件考案の目的、構成および作用効果について示唆する記載がないし、両者を組み合わせることについての示唆する記載もない。
無効理由6について
本件考案2は、本件考案1に従属するから、本件考案2も無効とされるべきものでない。
無効理由7について
本件考案1は技術思想であっで種々の具体例が想定されるものであるから、本件考案1において、案内子を連結板を介して設けるものに限定しなければならない理由はなく、側方に張り出すように形成したドライバーに直接設けることも自由であるから、単に「案内子をドライバーに設ける」と表現しているものであり、実施例の一つとして、「連結板」を介するものを示しているものである。
そして、上記の主張を立証するため、下記の証拠方法を提出している。
乙第1号証:特開昭59-137608号公報
乙第2号証:米国特許第4519297号明細書
乙第3号証:日本精器株式会社のカタログ「リニアスライダ」
乙第4号証:SMC株式会社カタログ「メカジョイント式ロッドレスシリンダ」
乙第5号証:実用新案権侵害行為等差止等請求事件の答弁書
4 〔甲各号証記載の考案〕
甲第1号証乃至甲4号証は、それぞれ以下の技術的事項が図面と共に記載されている。
甲第1号証
<1>第1図は、圧力媒体シリンダ構造体のケーシング11の正面図である。ケーシング11は長手方向に延びる2つの筒形内室12、13を備えている。図示の実施例の場合、内室の横断面は円形であるが、他の形でもよい。内室12の中には、ピストン14が挿入されている。このピストン14はその両端部にシール15を備えている。ケーシング11は第1図に示していない両端部のところで閉鎖され、かつこの両端部に入口または出口を備えている。圧力媒体例えば圧縮空気が前記入口からピストン14の一方の側の内室12の中に供給可能である。ピストン14の一方の側で内室12に圧力を加えることによって、ピストン14は反対方向に摺動する。ピストンのこの摺動により、ピストンに運結された装置を動かすことができる。(第4頁左下欄第4行~第19行)
<2>ピストシ14用内室12に対して平行に、第2の内室13が設けられている。この内室は内室12と直径および横断面形状が同じである。内室13の中には補助ピストン16が設けられている。この補助ピストンの両端部は拡径されている。この拡径された領域17には、例えば付着しにくくするコーティングを設けることができる。補助ピストン16はピストン14とほぼ同じ長さを有する。
第2図から判るように、ピストン14と補助ピストン16はそれぞれ1個の突起18、19を備えている。この両突起はケーシング11のそれぞれ1つの縦スリット20、21を通って外側へ突出している。同様に第1図から判るように、縦スリット20の内室12の側と、縦スリット20のケーシング11外面側はそれぞれ1つの帯状シール22、23によってシールされている。この帯状シールは上側のピストン14において内室12を圧密にシールする。補助ピストン16用縦スリット21はその外側が同様に帯状シール24によってシールされている。この帯状シール24はガイド内へのゴミの侵入を防止する。両突起18、19は互に平行にかつケーシング11の外面25に対して垂直に延びている。両突起18、19は連結板26によって相互に固定連結されている。この場合、連結板26は突起に取付けたスペーサ部材27に、ねじ28によってねじ止めされている。(第4頁左下欄第20行~第5頁左上欄第7、行)
<3>特に、第2図から判るように、補助ピストン16は、ピストン14用内室12の領域で構造体を拡げないようにする。更に、両ピストンと連結板26を相対的に動かないように配置することによって、突起18に作用する横向きの力はすべて受止められる。従って、横向きの力を縦スリット20、21の長手縁部によって受止める必要がない。(第5頁左上欄第14行~右上欄第1行)
<4>第3図には補助ピストンの変形実施例が示されている。この補助ピストン39は横断面が円セグメント状の2つの部分30を有する。この部分の横断面は円の半分以下にわたって延び、かっ筒形の中央部分31によって相互に連結されている。このピストン39は第2図の補助ピストン16と同じ目的を達成する。なぜなら、内室13の内壁に沿って補助ピストンが案内されるからである。更に、このピストンは、縦方向に見てその両側に空気クッションが形成されないという利点がある。(第5頁右上欄第2行~第12行)
以上の摘記事項から、甲第1号証には、圧力媒体シリンダ(<1>記載参照)において、ピストン14の軸芯と平行な筒形内室13をケーシング11と一体に設け(<1>、<2>記載参照)、その筒形内室13には、スリットの幅方向の両側に前記軸芯と平行な案内内壁を夫々備え(<1>、<2>、<3>、<4>記載参照)、これらの案内内壁に案内されるコーティング面を有する補助ピストン16、39を力取出突起18に設け否(<2>記載参照)ことが記載されている。
甲第2号証
縦方向スリット(10)を備えた細長状の筒状部材(1);
上記筒状部材(1)内に縦方向に摺動自在に設げられた荷重受け要素および荷重伝達要素(4、11)と;
細長状の筒状部材の端部と荷重受け要素(4)の間に上記スリットを閉塞するように配置された可撓性の細長状のシール要素(30、27)を備え、このシール要素は上記荷重受け要素がこの筒状部材内で縦方向に移動自在であるとともにこの荷重受け要素が縦方向に移動した場合にその背後の部分で上記スリットを閉塞するように再び嵌合すうものであり;
上記細長状の筒状部材に対応して案内要素(45)が設けられ;
この案内要素上を往復動自在に案内要素(45a)が案内され;
また、上記荷重受け要素および荷重伝達要素(4を)案内要素に筒状部材の縦方向に移動自在に接続し荷重を上記荷重受け妻素(4)に伝達する手段(18)を備えたものにおいて、
案内手段は外部案内機構に形成され、この外部案内機構は上記筒状部材(1)に対応してそのシリンダ軸(13)と平行に配置され、またこの外部案内機構は上記荷重伝達要素または案内要素(17、170)に所定量だけ移動自在に接続された案内要素(45a)を備えている直線伝導装置。(特許請求の範囲第19項)
甲第3号証
テーブル用直線運動ころがり軸受ユニットに関し、第11図、第12図に示すごとく、・・・幅の広いトラックレール10aの両側面の長手方向にそれぞれ軌道条列30が設けられ、・・・相対峙する各軌道条列30、37間に多数の移動体(ボール24またはローラ)が介装される構成は第1の実施例と同様である。本実施例においてはねじ軸5はトラックレール10aの一方の側方に平行して設けられ、従ってモータ14、ブラケット32a、33aも、トラックレール10aの一方の側方に、該トラックレール10aに固着されケーシング1aの本体2aの送りねじ体4aの位置も、本体2aの一側に偏して設けられている。・・・幅広のトラックレール10、10aの両側面に軌道条列が設けられる構成であるため、トラックレール10、10aが単一のものでありながら走行中のケーシング1、1aの揺動を生ずることがなく、また前記トラックレール10、10aはその下面全体で取付体へ直接取付けられでいるため、前記ケーシング1、1aの移動に際し、荷重による撓みを生ずることがなく、運行中の精度の低下が極めて少なく、しかも全体として単純な形状であるため、加工が容易で組立累積誤差が少ないため、高精度で走行所要動力が少なく、モータも小型で充分である安価な直線運動装置を得ることが可能となったものである。(第4頁左下欄第12行~第5頁右上欄第1行)
したがって、甲第3号証には、ねじ軸5に連結されるテーデル、トラックレール10aおよび軸受ユニットがねじ軸5の一方の側方にのみ、一体的に設けられたテーブル用直線運動ころがり軸受ユニットが記載されている。
甲第4号証
<1>本発明は、縦方向にスリットを有し端側を閉塞した筒状部材を有する直線伝動装置に関し、その筒状部材内に軸方向に駆動される荷重受け要素を縦方向に移動可能に設置し、筒状部材の縦方向スリットを荷重受け要素の両側で内部に設置した可撓性のシール帯によりシールし、このシール帯を縦方向のスリットを通って外側に突き出し荷重受け要素と接続した荷重伝達要素の下を通して設置し、場合によってこのシール帯に筒状部材の外面に設置し同様に端側を固定した可撓性のカバー帯を配置し、このカバー帯が縦方向スリットを介してシール帯と共働する保持機構を有し、その際、荷重伝達要素は筒状部材の一部を囲む取手状の案内要素により外側案内部の少なくとも二本の平行な案内レール上を縦方向に案内され、平行案内部の案内レールが縦方向スリットの両側で直接筒状部材の外面に設置される直線伝動装置に関する。(欧州公開特許公報第0157892A1号第1頁第1行~第21行参照、翻訳文第3頁第2行~第12行)
<2>第2図の直線伝動装置の実施形態は第1図のそれと、案内要素170が少し異なって形成されることだけである。したがって二つの図において同じ要素は同じ参照符号を付し、その際それら要素の説明の繰り返しは余計である。
第2図の実施形態では、基本的にU字状の取手170の形態で形成した案内要素が円板形状の支承要素220を有し、この支承要素は荷重伝達要素11の部分23に設置し対応して形成する支承カップ24に形状適合に嵌入される。したがって案内要素170は、荷重伝達要素11に対して支承部18で限定的に可動でまた垂直支承軸19の回りを限定的に回転可能である。支承部18、及び支承要素220を越えて案内されるカバー帯30はかぶせた細長いカバーフード40によりカバーされ、このカバーフードは荷重伝達要素11と接続され、カバー帯30したがって縦方向スリット10よりわずかに幅が広い。
縦方向スリット10に隣接する平らな上側平面41には、43で示唆する可動マークと共働する目盛42を設置する。これにより筒状部材1内での荷重伝達要素11のその時々の位置を正確に読み取ることができる。
案内ヨーク170に対向する側には筒状部材1の縦方向スリット10近傍に、例えば補強板45を装着させ、この補強板は筒状部材1がきわめて長いとき筒状部材のたわみを防止する。
筒状部材1の二つの下側案内レール15には、案内ヨーク170と固定的に接続する基本的にU字状のスライダ46を縦方向に移動可能に設置し、この案内ヨークはそれ自体の案内が不要になる。スライダ46には、駆動される機械要素などを接続できる。(欧州公開特許公報第0157892A1号第11頁第13行~第12頁第23行参照翻訳文第8頁第1行~第21行)
<3>代替する実施形態では筒状部材1に外部案内システムを配置し、シリンダ穴2の軸13に平行に整列することもできる。
それら外部案内システムは、例えば第2図の45では補強板の代わりに設置でき、その際弾薬筒のようなスライダなどの方法で形成できる、45aで示唆する可動要素を荷重伝達要素11または案内要素170と好ましくは限定的に可動に接続する。その場合、45の外部案内システムが要素46、170の課題を引き受けるので、スライダ46と案内要素170のない実施形態も可能である。
さらに外部案内システムは45で示唆する形態だけでなく、筒状部材1に直接構成できる。その配置は、筒状部材に固定的に配置するレール要素に外部案内システムを取り付けることもできる。(欧州公開特許公報第0157892A1号第13頁第22行~第14頁第13行参照翻訳文第9頁第6行~第15行)
なお、請求人提出の翻訳文には一部不適切な訳があるので、訂正して摘記した。
そこで、
(1)<1>に摘記した「縦方向にスリットを有し端側を閉塞した筒状部材を有する」、「その筒状部材内に軸方向に駆動される荷重受け要素を縦方向に移動可能に設置し、筒状部材の縦方向スリットを荷重受け要素の両側で内部に設置した可撓性のシール帯によりシールし、このシール帯を縦方向のスリットを通って外側に突き出し荷重受け要素と接続した荷重伝達要素の下を通して設置し」の記載内容を検討すると、「荷重受け要素」は「ピストン」に相当するものであるから、
甲第4号証には、「筒状部材の側壁に縦方向にスリットを有する構成、該スリットより筒状部材内のピストンに連結された荷重伝達要素の先端が突出し、スリットは可撓性シール帯にて密封されるようになっている所謂ロッドレスシリンダー(以下、「構成A」という。)」が記載されている。そして、この「構成A」は、第1図及び第2図の実施形態を含む甲第4号証の各実施形態に共通する構成である。
(2)<2>に摘記した「第2図の直線伝動装置の実施形態は第1図のそれと、案内要素170が少し異なって形成される」、「基本的にU字状の取手170の形態で形成された案内要素」、「案内ヨーク170に対向する側には筒状部材1の縦方向スリット10近傍に、例えば補強板45を装着させ」、「筒状部材1の二つの下側案内レール15には、案内ヨーク170と固定的に接続する基本的にU字状のスライダ46を縦方向に移動可能に設置し、」及び「第2図」の記載内容を検討すると、第2図の実施形態には「構成A」において、「荷重伝達要素11に連結される案内ヨーク170と筒状部材1のスリットを挟んで対向する筒状部材1の側壁に補強板45を設け、筒状部材1の二つの下側案内レール15には、案内ヨーク170と固定的に接続する基本的にU字状のスライダ46を縦方向に移動可能に設置したもの」が開示されている。
(3)<3>に摘記した「筒状部材1に外部案内システムを配置し、シリンダ穴2の軸13に平行に整列する」、「外部案内システムは、補強板の代わりに設置でき」、「45aで示唆する可動要素を荷重伝達要素11または案内要素170と好ましくは限定的に可動に接続する。」、「その場合、45の外部案内システムが要素46、170の課題を引き受けるので、スライダ46と案内要素170のない実施形態も可能である。さらに、外部案内システムは45で示唆する形態だけでなく、筒状部材1に直接構成できる」等の記載内容を検討すると、
補強板に代えて、外部案内システムを設置する場合、可動要素45aは荷重伝達要素11または案内要素(案内ヨーク)170と接続されるので、外部案内システム45がスライダ46と案内要素170の課題を引き受け、すなわち、外部案内システム45がスライダ46、案内要素170の役割を果たす故、それらを省略できる旨の記載があること、および「筒状部材1に直接構成でき」は筒状部材を一体に設けるものと解せられることにより、結局、<3>の代替する実施形態には「構成A」において「筒状部材1のスリットを挟んだ両側の側壁の一方に、ピストン4の軸芯と平行な外部案内システムを筒状部材1と一体に設け、その外部案内システムに案内される可動要素45aを前記荷重伝達要素11に設けたもの」が開示されているものと認められる。
ところで、平成9年11月13日の口頭審理において、被請求人は、外部案内システム45が設置された場合は、スライダー46と案内要素170は省略できるが、外部案内システム45を前記省略した部分に設置することを意味すると陳述している。また、第2答弁書第7頁第5行~同頁第23行において、同趣旨のことを答弁している。
しかし、前述したように、外部案内システム45がスライダ46、案内要素170の課題を引き受けることにより、それら(スライダ、案内要素)を省略できるのであるから、省略したものに代えて、あえてその位置に外部案内システム45を設置することは、「省略」の意義からしても不合理である。
したがって、外部案内システムは、筒状部材1のスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみに設けられていると解するのが自然である。
(4) 以上(1)乃至(3)をまとめると、甲第4号証には、
「筒状部材1の側壁に縦方向にスリットを有し、該スリットより筒状部材1内のピストン4に連結された荷重伝達要素11の先端が突出し、スリットは可撓性シール帯27にて密封されるようになっている所謂ロッドレスシリンダーにおいて、筒状部材1のスリットを挟んだ両側の側壁の一方に、ピストン4の軸芯と平行な外部案内システムを筒状部材1と一体に設け、その外部案内システムに案内される可動要素45aを前記荷重伝達要素11に設けた直線伝動装置」が記裁されているものと認められる。
5 〔対比および判断〕
請求人は、本件考案を本件考案1と本件考案2との2件とし、それぞれが無効であると主張するが、本件考案は、昭和63年1月1日施行の所謂改善多項制以前の出願であるから、以下、前記認定の要旨からなる本件考案(本件考案1)のみを対比判断の対象とする。
本件考案と甲第4号証に記載された考案とを比較すると、甲第4号証に記載の考案の「筒状部材1」、「縦方向」、「ピストン4」、「荷重伝達要素11」、「可撓性シール帯27」、「外部案内システム45」、「可動要素45a」、「直線伝動装置」は、それぞれ本件考案における「バレル」、「軸方向」、「遊動ピストン」、「ドライバー」、「スチールバンド」、「案内レール」、「案内子」、「圧流体シリンダ」に相当し、両者は、
「バレルの側壁に軸方向にスリットを有し、該スリットよりバレル内の遊動ピストンに連結されたドライバーの先端が突出し、スリットはスチールバンドにて密封されるようになっている所謂ロッドレスシリンダーにおいて、バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみに、ピストンの軸芯と平行な案内レールをバレルと一体に設け、その案内レールに案内される案内子を前記ドライバーに設けた圧流体シリンダ。」
で一致し、
案内子と案内レールの関係において、本件考案は、スリットの幅方向の両側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、これらの案内面に案内される案内面を有する案内子を前記ドライバーに設けているのに対して、甲第4号証に記載の考案では案内子を案内するための具体的構造が明らかでない点で相違する。
そこで、上記相違点について検討する。
甲第1号証に記載された考案の「圧力媒体シリンダ」、「ケーシング11」、「ピストン14」、「筒形内室13」、「案内内壁」、「案内される案内コーティング面」、「補助ピストン16、39」、「力取出突起18」は、本件考案の「ロッドレスシリンダ」、「バレル」、「ピストン」、「案内レール」、「案内面」、「案内される案内面」、「案内子」、「ドライバー」に、それぞれ相当するから、甲第1号証には、ロッドレスシリンダーにおいて、ピストンの軸芯と平行な案内レールをバレルと一体に設け、その案内レールにはスリットの幅方向の両側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、これらの案内面に案内される案内面を有する案内子をドライバーに設けることが記載されている。甲第1号証に記載のものは、本願考案、甲第4号証同様ロッドレスシリンダーに関するものである故、前記甲第4号証に記載の案内子を案内するための構造を具体化するために、甲第1号証に記載の案内子と案内レールとの関係を適用して、本件考案のように、案内子をピストンの軸芯と平行な案内レールに取り付けるのに、スリットの幅方向の両側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、これらの案内面に案内される案内面を有する案内子をドライバーに設けることは、甲第4号証及び甲第1号証に記載の考案に基づいて、当業者がきわめて容易に想到し得たことである。
そして、本件考案の効果は、甲第4号証および甲第1号証に記載された考案から予測し得るものであって格別のものとはいえない。
以上のとおりであるから、本件考案は、甲第4号証及び甲第1号証に記載された考案に基づいて当、業者がきわめて容易に考案できたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。
6 〔むすび〕
したがって、本件考案の実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであって、同法第37条第1項第2号の規定に該当するので、これを無効とするべきものとする。
さらに、審判に関する費用については、実用新案法第41条で準用する特許法第169条第2項でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。